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京都地方裁判所 昭和53年(ワ)1221号 判決

原告

砂場伸也

砂場享子

右原告両名訴訟代理人

井関和彦

藤原猛爾

被告

宇治市

右代表者市長

島田正夫

右訴訟代理人

小野誠之

主文

一  被告は原告両名に対しそれぞれ金四九七万円及び内金四六二万円に対する昭和五三年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告両名のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告両名の連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一当事者間に争いのない事実

原告らの長男砂場哲也(当時満八歳)が、昭和五三年六月二三日午後六時四〇分頃、被告の管理する宇治市小倉町南堀池の市道小倉―伊勢田線(本件道路)の東側路側から訴外巨椋池土地改良区の管理する用水路(本件水路)に転落し水死したこと、本件事故現場は新興住宅や、小・中・高校等に囲まれた地域で本件道路は通学路等住民の生活道路として頻繁に利用されていたこと、本件水路の水深は通常は浅かつたこと、本件現場から北側一一四メートルの区間はガードレールが設置されておらず、又この間の本件道路の幅員は約1.8メートル狭くなつていること、本件事故前に地元自治会から被告に対し本件道路付近の事故防止措置について要望が出されていたことは当事者間に争いがない。

第二本件事故現場の状況

〈証拠〉によれば次のとおり認められる。

一本件事故現場の四囲の状況

本件現場付近の西宇治地域は昭和三九年から巨椋池干拓田を埋め立てて開発が急速に進んだ人口急増地域であり、年を追うにつれて人家が密集し、それと共に学校、金融機関等の建物が建築され、本件現場の半径四〇〇メートル以内にも別紙図面(一)のとおり、小学校二校、中学校、高等学校各一校のほか保育所もあつた。

現場の西小倉地域から久御山町にかけては元巨椋池干拓田で地盤が低く、用水路が五〇線以上延べ三六キロメートル程網の目状に走つており、排水はこの用水路のほか城陽市から宇治市、久御山町に抜ける一級河川の古川と平等院横から宇治市に横断し古川に流れ込む井川が主要な排水ルートである。しかし右古川の改修が遅れ、久御山町にある排水場のポンプの排水能力も不足しているため、一時間一五ミリメートル程度の降雨があると用水路や井川は満水となり溢水による被害が出ていた。このため被告と地元西小倉自治連合会との間でほぼ毎年開かれる行政懇談会の席上で道路、用水路、河川の整備、改修、管理等に関する様々な住民の要望が多く出されており、人口急増地帯のため、生活環境面の施設の整備が遅れがちであつた。

二本件道路の構造及び交通事情

(一)  本件道路の構造

本件道路は舗装道路であるがそのうち別紙図面(一)の市道一号との交差点(A)から市道二号との交差点(B)までの間約二八〇メートルの部分についてみることにする。

(1) 東側部分

東側部分は本件用水路主排四号が流れており、A点から南へ約一〇九メートルの区間は被告により昭和四八年度道路改良工事として擁壁が築造されており、又昭和四九年度交通安全工事によりその間にガードレールも設置されていた。B点から北へ約五七メートルの区間は昭和四六年当時既に擁壁があり昭和四七年度交通安全工事としてその間にガードレールも設置された。しかし本件事故当時その中間部分およそ一一四メートルの区間は擁壁及びガードレールはなく、主排四号の土手に雑草が生い茂つていた。なおA点からB点までの舗装部分東端には電柱が八本程立ち並んでいる。本件道路の幅員は北側擁壁の区間は8.8メートル、擁壁のない中間部分は6.9ないし7.0メートル、本件事故現場付近の擁壁のない部分は7.55メートル、擁壁工事がされている部分は9.4メートルであり、擁壁工事により道路幅員が約1.8メートル拡張されたと認められる。

なお昭和五二年五月一五日に開かれた西小倉地域行政懇談会において西小倉自治連合会から本件道路沿いの主排四号についても、排水対策改良ドロ上げ、草刈りのほか安全柵設置の要望が出されており、これに対し被告は現地調査して緊急度の高いものから順次施工していく旨回答していたが、本件事故が発生するに及び、その後間もなくして右ガードレールのない区間についてその設置に着工し昭和五三年九月四日にこれを完成させた。

本件転落事故当時その現場付近の状況は別紙図面(二)のとおりであり、擁壁工事がされている部分はされていない部分より約1.85メートル張り出している。またガードレールは道路拡張部分北端まで設置されているのではなく、右北端から南へ2.3メートルのところまでしかなかつた。

(2) 西側部分

本件道路西端はA点からC点にかけて幅四〇〜六〇センチメートルの排水溝が設けられており、この排水溝から道路中央寄り1.5メートルのところにこれと平行して白線が引かれ歩道であることを示している。

(二)  本件道路の交通事情

本件事故現場は新興住宅や小、中、高校等に囲まれた地域で本件道路は通学路等住民の生活道路として頻繁に利用されていたことは当事者間に争いがなく、更に前掲各証拠及び前記認定事実によれば、本件道路は車輛の通行も頻繁であり、付近に新興住宅が立ち並び、小、中、高の各学校のほか保育所もあること、本件道路は一部が教育委員会により通学路に指定されていること、本件道路は近くに府立高校があるためその性格は生活道路より上位に位置付けられること等の事実が認められ、車輛のほか、付近の住民、生徒、児童、幼児等の通行人の往来も頻繁な道路であると認められる。

三本件水路の構造及び増水状況

(一)  本件水路の構造

本件水路は訴外巨椋池土地改良区が管理しており、別紙図面(一)のとおり井川に接続して南から北へ流れている。別紙図面(一)のAB間の幅員、深さをみると、A点から南へ約一〇九メートルは西岸だけに擁壁工事がされており、上部の幅員は平均すると約6.5メートル、底部幅員は約3.8メートル、深さ約1.5メートルである。擁壁工事がされていない中間部は上部幅員は八ないし一〇メートル、底部幅員は1.9ないし3.3メートル、深さは約1.8メートル、その南側の両岸に擁壁工事がされている部分については上部幅員は4.1ないし4.6メートル、底部幅員が1.7メートル、深さは約1.5メートルである。擁壁工事がされていない岸は前記認定の如く土手となつており雑草が生い茂つている。

(二)  増水状況

(1) 西小倉地域に縦線に走る用水路は排水設備の不備等から一時間一五ミリメートル程度の降雨で増水し溢水による被害が生じていたのは前記認定のとおりであり、本件用水路も通常は水位が低く子供達が土手から下りて菜の花を摘んだり小魚やおたまじやくしを取つたりして遊ぶことができたが、夕立が降る程度でも忽ち増水して水位は本件道路すれすれまで達し、もつと強い雨が降れば本件道路上に冠水し、道路との境界が不明となつて道路巾が広く感じられ、大人でも危険に思う程であつた。(〈証拠〉によれば、同人は過去五年間に三回そのような状態を目撃したという。)又〈証拠〉によれば梅雨の時期である本年六月二七日には、本件道路南側の擁壁及びガードレールが設置されている部分は、本件水路の増水により擁壁の上面を超えて本件道路上のガードレールの支柱の根元まで冠水しており、擁壁のない部分も路肩に接する土手に生えている雑草の根元まで水位が上昇しているが、同月三〇日には水位は擁壁の底部近くまで低下していることが認められる。

(2) 本件事故当日も午後四時頃からかなり強い雨が降り出し、事故直後においては別紙図面(二)の赤線で示す如く、擁壁のある出張り部分は冠水しており、その北側の擁壁のない部分も道路上まで若干溢水していたが、翌朝にはすつかり水はひいていた。

第三本件事故の発生及びその原因

〈証拠〉を総合すると次のとおり認められる。

(一)  原告両名の間には長男哲也(昭和四五年五月一五日生)及び次男剛也(昭和四八年一二月七日生)の二男があり、原告砂場伸也は広告会社に勤務し、同享子は宇治市立の保育所に保母として勤務するいわゆる共稼ぎの家庭で、長男は小学校の授業終了後も育成学級におり、次男は保育所に預けていた。昭和五三年六月二三日午後六時から西小倉中学校(別紙図面(一)参照)体育館において、宇治市職員による各課対抗のバレーボール大会の開催が予定され、原告享子は学生時代にバレーボールをやつたことがあり、周囲からすすめられてこれに参加することになつていた。そこで同原告は当日午後二人の子供をそれぞれ小学校及び保育所に迎えに行き子供らと一緒に友人の車で右中学校に送つてもらい、六時一五分頃到着した。その頃雨は強く降つていた。

(二)  試合開始まで一〇分間程ありこの間に哲也らが近所の菓子店(哲也らはその週の月曜日のバレーボール大会に連れられて来た時に行つてその場所を知つていた。)に菓子を買いに行きたいとせがんだので、同原告は一旦はこれを許さなかつたが結局気をつけて行くよう注意を与え傘を一本持たせて哲也及び剛也を送り出した。

(三)  哲也及び剛也は別紙図面(一)に示したひおき菓子店でチューインガムなどを買い、その帰途、六時四〇分頃同図面(二)に転落現場と示してある付近でぴちやぴちやと水と遊んでいるうち、哲也は誤つて本件水路に転落した。なお当時降雨のため本件道路西側の歩道部分(路上に白線を引いて車道と区分されている)には排水溝からの溢水があり、水があふれていた。

(四)  その頃付近に住む高倉久美子は、本件転落現場付近に二人いた子供のうち一人しか見えなくなつたので、その子供(剛也)に「お兄ちやんどこに行つたの」と聞いたところ、何も答えなかつたが、本件水路に転落したおそれがあると思い、ひおき菓子店に立ち寄つた後、六時四五分頃剛也を連れて西小倉中学校体育館に行き、大声で哲也が川に落ちたように剛也が言つている旨知らせた。当時原告享子は試合の最中であり、又右高倉とは面識がなかつたが、この声を聞いて直ちに哲也が転落したと察知し、試合の服装のまま飛び出して現場付近に駆けつけた。

(五)  このためバレーボールの試合は中断され、他にも同原告の後に続いて数人が戸外に駆け出した。剛也は被告市の職員の佐野某が連れ出し、続いて第二試合に参加すべく体育館に来ていた秘書課の職員である森博が受けとつて抱きながら現場付近に駆けつけた。

現場において剛也は原告享子や森らに対し、別紙図面(二)の転落現場付近を指さし、二人(哲也と剛也)でぴちやぴちや遊んでいたら、ここから哲也が落ちた旨告げた。

(六)  その後の捜索にもかかわらず哲也はその日のうちに発見されず、翌朝午前六時頃になつて、別紙図面(一)に示す遺体発見現場において溺死体となつて発見された。

(七)  原告らの住居は本件現場から徒歩で二五分から三〇分位のところにあり、原告享子及び哲也らは本件現場の地理に不案内であり、又住居付近には本件現場のような用水路もなく、降雨時の増水状況もわからなかつた。

以上のとおり認められる。原告らは亡哲也は遊んでいるうちに転落したものでなく、単に歩行中に転落した旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、前掲各証拠によれば、ぴちやぴちやと水で遊んでいるうちに転落したと認めるのが相当である。ただ前記認定の哲也及び剛也の行動及びその時刻、本件道路上の溢水状況からみて、二人はひおき菓子店で買い物をしたあと、白線で引かれた歩道内は排水溝からの溢水のため歩きにくいこともあつて本件道路東側を南下して西小倉中学校の方に帰つていた際本件転落現場付近にさしかかつた時に、擁壁築造により道路が拡張された部分が冠水しているのを見て立ち止まり、児童や幼児に有りがちなその冠水部分を靴でぴちやぴちやとしているうち、本件道路と水路との境界が増水及び冠水により不明であり、かつガードレール等の柵もなかつたため誤つて転落したものと推認し得るのであり、ぴちやぴちやと遊んでいた時間もそう長くはなかつたとみることができる。

被告は、被害者は本件道路に設けられた歩道とは反対側のしかも水路の増水により誰がみても心理的圧迫感を抱くところで、遊び場でないのに水遊びをしていて誤つて転落したのであり、この被害者の軽率な行為と原告らの監護義務懈怠に本件事故の責任がある旨主張しており、本件事故原因は専ら被害者側の過失にあるごとき主張をしている。

しかし右認定の事実によれば、歩道とされている部分は溢水により歩きづらかつたみられるから、本件道路東側を歩行したことはそれ程責められるべきでなく、水遊びの点も通行中に冠水部分をみて子供特有の興味を抱いたためと考えられ、その時間も長くはなかつたのであるから、本件事故原因を専ら被害者側の過失のみに帰せしめるのは酷であり、被害者の行為が本件事故の無視し得ない原因であることは十分首肯しうるにしても、本件水路の増水及び道路の拡張部分の形状により道路と水路との境界が判別しにくかつたこと並びにガードレールや安全柵等転落防止設備がなかつたことも原因であるというべきである。

第四本件道路管理の瑕疵の存否について

そこで被告が本件道路から本件水路への転落防止設備を設置しなかつたことが道路の設置管理の瑕疵になるかについて検討を加えることにする。

道路の構造は当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならず(道路法二九条)、道路の設置管理に瑕疵があるか否かは右の基準に加えて当該道路の利用者の判断能力や行動能力等も具体的に斟酌し、当該道路が本来備えるべき安全性を欠いていたかどうかで決定すべきである。又本件の如く道路自体の瑕疵ではなく、通行者が道路外へ転落することを防止する設備が問題となつている場合には通行者が道路外へ転落する可能性や転落した際の被害の程度なども瑕疵の存否を判断するにあたつて重要な要素というべきである。

以上の理を本件についてみるに、前示現場付近の環境からすれば、本件道路は児童、幼児の通行も頻繁に行われていたと認められ、被告はこれら認識、判断能力が劣り好奇心の旺盛な年少の子供の通行の安全性も確保すべきところ、前示本件道路の構造・設備、就中本件転落現場付近の形状、本件水路の増水及び溢水状況からすれば、本件事故現場付近は本件水路からの溢水があるときは道路東端の水路との境界が判別しにくくなり(右の溢水は、河川の改修の遅れ、排水設備の不備から強い降雨があるとままみられたことは前示のとおり)、かつガードレール等の柵もなかつたため歩行者ことに学童、幼児などは誤つて水路に転落する可能性ないし危険性も高く、又本件水路が増水したときの水深、水量からみると、転落した場合特にそれが年少の子供であれば溺死する危険も極めて高かつたというべきである。以上の事情を総合すれば被告は本件道路と水路との間の境界を明示し、さらに本件転落現場付近に転落防止のための安全柵を設けるべきであつたとはいえ、これがなされていなかつた本件道路は通常具有すべき安全性を欠如していたものというべく、本件道路の管理に瑕疵があつたことは明らかでおる。被告は本件道路西側に歩道が設けられているから本件の如く歩行者が本件道路東側を通行して転落することは予測しがたいと主張するが、右歩道は強い降雨があるときは排水溝からの溢水により歩きづらくなることは前示のとおりであるのみならず、学童や幼児を含む歩行者すべてが単に白線が引かれただけの歩道を通行することは到底期待し得ないから被告の右主張は理由がない。さらに被告はガードレールの本来の目的は車輛の通行の安全にあると主張し、成程〈証拠〉によれば、「防護柵(ガードレールはその一種)は主として走行中に進行方法を誤つた車輛が路外、対向車線または歩道等に逸脱するのを防ぐとともに、乗員の傷害および車輛の破損を最少限にとどめて、車輛を正常な進行方法に復元させることを目的とし、副次的に運転者の視線を誘導し、また歩行者のみだりな横断を抑制するなどの目的をかねそなえた施設いう」と定義されていることが認められ、本来ガードレールは歩行者が道路面外に転落するのを防止するための施設とはいえないのであるが、本件転落現場付近の道路に要求されるのは歩行者の転落防止のための柵であつて、必ずしもガードレールでなくてもよく、ただ本件現場にガードレールがあれば歩行者の転落を防止する用にも役立つたであろうといえるに過ぎないから、被告の右主張も本件道路の設置管理の瑕疵の判断にあたつては意味がない。

更にまた被告は本件現場は農業用水路の通る地域に住宅街が発達してきたものであり、ガードレールの設置は緊急度の高いものから順次行つてきており、本件現場付近はこれまで一度も事故がなく緊急度が低かつた旨主張する。前示のとおり、本件現場付近は急速に宅地化が進んだところであるため被告としては学校、病院等の公共施設の建設や生活環境の整備等に追われ、予算の制約もあつて本件現場にまで手が回らなかつた事情があつたと推認されそれはそれなりに理解できるが、現に被告は本件後速かにガードレールを設置したことは前記認定のとおりであり、緊急度が低かつたというのも被告の判断の甘さを示すものにほかならず、これをもつて瑕疵がないとすることはできない。

以上の次第で被告は本件事故につき国家賠償法二条の責任を負うというべきである。

第五損害

一逸失利益一五七〇万円

亡砂場哲也は本件事故当時八才の男児であつたから、逸失利益は昭和五二年度賃金センサス第一巻第一表、産業計企業規模計の男子労働者の学歴計年令計の給与額を基準とし、就労可能年数は一八才から六七才までとし、中間利息年五%の控除はライプニツツ式により六七年から八年までを差引いた五九年に対応する係数から一八年から八年までを差いた一〇年に対応する係数を差引いた係数を用いて算出し、生活費として二分の一を控除すると次のとおりである。

これを一五七〇万円とみて原告両名がそれぞれ七八五万ずつ相続した。

二慰藉料七〇〇万円

〈証拠〉によれば亡砂場哲也は原告両名の嫡出子であつて、健康で明るい性格の小学校二年生の男児であり、原告両名はその将来を期待していたことが認められ、本件事故により哲也が死亡したため蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は、右の事情のほか本件事故の態様等諸般の事情を考慮して原告それぞれ金三五〇万円合計七〇〇万円と認めるのが相当である。

三葬祭費の四〇万円

〈証拠〉によれば、原告らは亡哲也の葬儀費用及びこれに関連する費用としておよそ一四五万円を支出し、このうち五〇万円については領収書等の証拠が提出されていたこと、亡哲也の墓碑建立費として二〇三万円を要したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある葬祭費及び墓碑建立費としては四〇万円と認めるのが相当であり、原告両名がそれぞれ二〇万円ずつ負担したと認める。

以上を合計すると原告ら一人の金額は一一五五万円ずつとなる。

四過失相殺

(一)  原告砂場享子の監護義務懈怠について

前記第三で認定した事実によれば、原告砂場享子は八歳の亡哲也及び四歳の剛也の二人だけで強い雨の降る中、近所の菓子店に菓子を買いにやらせたものであるが、哲也らはその週の月曜日に同じ菓子店に行つて菓子を買つたことがあり、その所在する場所及び道順を知つていたと推認し得ること、原告砂場享子は本件現場付近の地理にくわしく、用水路が多いことやこれが増水していたことを知らず、又知らなかつたことにつき責められるべき点もないこと、亡哲也は既に小学校二年生の学童であり後に認定するように事理弁識能力を有していたと認められることなどの諸事情を考慮すれば、原告砂場享子が本件事故当日雨の中子供二人に外出を許したことを非難することはできず、同原告に監護義務懈怠があつたということはできない。

(二)  亡砂場哲也の過失について

〈証拠〉によれば亡哲也は家庭では原告両名から厳しくしつけられ、学業の成績は普通であつたが特に算数が得意であり、スポーツでは球技が好きであつたことが認められ、同年令の学童が通常有すべき認識、判断能力及び行動能力を有していたというべきところ、同人は本件事故当日八才六か月の男児であり、既に事理弁識能力を備えていたと認められる。

而して本件事故原因につき検討した如く、本件事故は、亡哲也が買物からの帰途、道路の冠水部分を靴でぴちやぴちやとしているうちに誤つて転落したものであり、単に歩行したのではなく、又本件水路が増水して危険であることは十分認識し得たにかかわらず、道路端に寄り過ぎたことが転落の一原因となつたのであるから、同人に本件事故につき過失のあつたことは明らかである。その過失割合は、前示本件道路の構造、形状、瑕疵の内容、本件事故の態様、被害者の年令、行動等を総合して考慮し、原告側六被告四とするのが相当である。従つて原告ら一人につき賠償すべき金額は四六二万円ずつとなる。

五弁護士費用七〇万円

本件事故後原告らが被告との間で話し合いにより円満に解決する努力をした事実を認めるに足りる証拠はないが、弁論の全趣旨により本件はいずれ訴の提起により解決しなければならなかつたと推認される。そこで弁護士費用につき検討するに本件事案の内容、審理経過、認容額等を斟酌し、原告両名が被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用は原告両名各三五万、合計七〇万円と認めるのが相当である。

六以上の次第で被告に対する原告両名の本訴請求は、各原告につきそれぞれ四九七万円及び内金四六二万円につき本件事故による亡哲也の死亡の日である昭和五三年六月二三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がないといわなければならない。

第六結語

よつて原告両名の被告に対する本訴請求は右認定の限度で認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(菊地博 川鍋正隆 天野実)

別紙図面(一)(二)〈省略〉

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